FROM ICHINOSEKI
夏の一関で熟した
トマトを、
その季節の
ビールにする
トマトビールが毎年同じ時期に機械的に出てくる商品ではないのは、原料が畑の時間で動くからです。地元でトマトが赤く熟し、醸造に使うまとまった量がそろってから、私たちは仕込みを始めます。原料を集めて仕込み、製品として整うまでにはおよそ一か月かかります。
そのため、夏が近づくと「今年のトマトはいつですか」という問い合わせが届きます。売店を訪れる方だけでなく、東京のレストランから連絡をいただくこともあります。発売日だけを見れば季節限定商品ですが、待っている方にとっては、暑さの到来を知らせる一杯になっています。
一関で赤く熟したトマトを、一関の蔵で季節のビールへ。地域の収穫と醸造がつながって生まれる一本です。
遠くへ運びにくい完熟だから、地元で生かせる
完熟したトマトは味がのっている一方で、やわらかく、長い距離を運ぶには扱いが難しくなります。一関で赤く熟したものを、遠方へ運ぶことだけにこだわらず、近くの醸造所で別の価値へ変える。トマトビールの背景には、地域の素材を地域で生かす発想があります。
ここで大切なのは、単に余ったものを入れるという話ではないことです。醸造に向くのは、青さが残らず、十分に熟したトマトです。未熟な実の青い香りは、発酵を通すと消えるとは限らず、むしろ目立ってしまうことがある。だからこそ、色だけでなく熟し方を見て選ぶ必要があります。
使うのは一関産のトマトです。品種は地域で広く作られる桃太郎系が中心。土地の名前をラベルに書くだけではなく、実際にその土地で採れた原料が味の土台に入っています。ひと口の中に一関らしさを残すための、譲れない条件です。
煮沸と発酵で、「生のトマト」とは違う香りへ
選ばれた完熟トマトは、麦汁を煮沸する段階で加えられます。麦汁と一緒に熱が入り、その後、酵母が働く発酵の時間へ進みます。トマトの糖や香りのもとになる成分は、この工程の中でそのままではなく、ビールの一部として変化します。
醸造では黒胡椒もアクセントとして使う設計です。料理へ大量に振るような辛さを付けるのではなく、トマトの香りを支え、後味を引き締めるための要素として加えます。私たちが「ミネストローネのよう」と表現するのは、トマトだけでなく、煮沸と発酵、控えめなスパイスが重なった印象をお伝えするためです。
発酵は、素材を足し算のまま残す工程ではありません。麦汁とトマトを別々に感じさせるのではなく、酵母の働きを通して一つの液体へまとめていきます。だから、飲む前の想像では「ビールとトマトジュース」だったものが、口にすると「トマトから造ったひとつのビール」に変わります。
変わったビールで終わらせない。
守るのは、ビールの本道
農産物は工業製品ではありません。熟す速さも、収穫のまとまり方も、季節の条件によって動きます。変化がある素材を使いながら、トマトの青さを出さず、ビールとしての飲みやすさを保つ。そのために、原料選びと仕込みのタイミングが重要になります。
私たちが目指すのは、奇抜さだけで記憶されるビールではありません。名前や色に驚いて手に取った方が、飲んだ後には「ちゃんとビールとしておいしい」と感じられること。トマトという意外な原料を使いながら、醸造の本道で味をまとめることです。
毎年問い合わせが届くのも、珍しさを一度試して終わる商品ではないからでしょう。料理に合わせてもう一度飲みたい。夏になったら思い出す。飲食店でお客様へ紹介したい。そうした具体的な飲まれ方が積み重なり、季節の定番になっていきます。
イメージしている味とは、きっと違いますレッドアイを思い浮かべた方に、私たちがいちばん伝えたいのは「まず飲んでみてほしい」ということです。混ぜた味ではなく、発酵によって生まれた一体感がある。トマトを使いながらビールとして成り立っている。その驚きこそ、毎年造り続ける私たちの楽しみです。
一関で赤く熟したトマトと向き合い、その年の素材を醸造の工程へつなぐところから、私たちのトマトビール造りは始まります。
一杯を、一関へ興味を持つ入口に
私たちは、地酒や地ビールを「地元を表現するもの」と考えています。トマトビールなら、一関の畑で赤く熟した実があり、集める人がいて、私たちの醸造所で仕込む人がいる。その背景まで知ると、缶の中身は単なるフレーバーではなく、地域の季節を運ぶものになります。
もちろん、最初から産地の物語を詳しく知らなくても構いません。赤い色が気になった。トマトビールという名前に驚いた。料理に合いそうだと思った。どの入口からでも、実際に飲んでおいしいことが先にあります。その後で「これは一関のトマトから造られている」と知り、土地へ関心が広がる。その順番も自然です。
もし一関を訪れる機会があれば、畑のある風景や、醸造所の空気、地元の料理と一緒に、このビールの背景を思い出してください。一杯をきっかけに地域を知り、いつか足を運びたくなること。それが、地元の素材から酒を造る私たちにとって大切な到達点です。
レッドアイではなく、
一関で発酵させたビールとして
改めて要点をまとめると、世嬉の一酒造のトマトビールは、完成したビールへジュースを混ぜたカクテルではありません。一関産の完熟トマトを麦汁の煮沸時に加え、酵母とともに発酵させたクラフトビールです。
最初はビールらしく、飲み込んだ後に調理したトマトのような香りが戻る。強い酸味や青臭さを狙うのではなく、料理とつながる余韻をつくる。ここまでを知ってから飲むと、赤い液色の向こうにある工程が見えてきます。
発売は2026年8月19日。発売前の現在は、公式ECサイトで予約を受け付けています。まず一本を自分の食卓で確かめるか、六本を家族や友人と分けるか、十二本を夏の集まりに用意するか。選び方は違っても、最初の一口ではぜひ、飲み込んだ後の香りを待ってみてください。